井戸、掘りたいですよね?
数年前から井戸を掘りたい気持ちはありましたが、決定打は「富士山噴火で2週間分の備蓄が必要」というニュースでした。この機会に、自宅の災害対策を見直しました。
- 食料:ローリングストック、家族4人 × 3食 × 14日 = 168食
- 電力:ポータブルバッテリー、ハイブリッドの車、カセットガス発電機
- 情報:Starlinkによるインターネット回線
カセットガス発電機だけでは電力が不足するため、太陽光発電も追加しました。
元々、4.6kWのソーラーパネルがありましたが、外壁・屋根の改修時に下ろしたため、発電できなくなりました。また、屋上だけでなくベランダから垂直にぶら下げるパネル200W × 3も追加し、Mac Studioとその周辺機器の電力として利用するようにしました。
非常用水は次の方法で確保しています。
- 張ったままの浴槽の湯
- エコキュートの530リットルの湯
- 140リットルの天水桶2つ
- 家族4人の1週間分の長期保存の飲料水
天水桶の雨水は、中空糸膜フィルターで浄水すれば飲料水として使えると確認済みです。また、30メートル離れた実家に深さ40メートルから電動ポンプで汲み上げる井戸があります。ただし、ポンプを動かす電力の確保が必要です。
下調べをしよう
単管や塩ビのパイプで打ち込み井戸を掘れることや、いずれのパイプでも先端部分が重要なことも知っていました。たまたま、株式会社ホウワの”矢太郎Pro”という、鋼鉄製の矢じりを採用しているキットを見つけ検討を始めました。
掘ってみて分かったのは、専門家のアドバイスが極めて重要だということです。掘削深度や帯水層に到達したかどうかの判断は、素人には難しいからです。宣伝ではなく、”矢太郎Pro”を買ってアドバイスをもらえる専門家を確保しておくことを強くオススメします。
まず、帯水層の深さを調べるのが井戸掘りの最初の関門です。国土交通省のウェブサイトにボーリング調査データが公開されていますが、残念ながら自宅から離れた地点でした。ホウワさんに相談して自宅の最寄り地点のデータを教えてもらい、深さ5メートルに帯水層があることが分かりました。Googleマップによれば、自宅は最寄り地点より標高が1.6メートル高いので、深さ6.6メートルが目安です。
この深さには重要な意味があります。1つはパイプを打ち込む労力の大小、もう1つは動力ポンプの要否を判断する基準になる点です。ポンプは真空を作り出して液体を移動させます。持ち上げ可能な高さは、トリチェリの真空の式で求められます。
気圧・水の密度・重力加速度を代入します。
理論上は10.33メートルまで汲み上げられますが、実際にはパイプの継ぎ目やパッキン性能の影響で、手押しポンプの限界は約8メートルです。
筆者が住む千葉県では、「揚水機の吐出口断面積(断面積が6平方センチメートルを超えるかどうか)」で条例の規制対象か否かが判断されます。しかし、手押しポンプは動力を使わないため「揚水機」に該当せず、許可は不要となります。また、動力ポンプの吐出口が1インチの場合、断面積は5平方センチメートル程度なので、やはり許可は不要です。帯水層の深さが判明した時点で、自治体の条例を確認しておきましょう。
また、自宅の敷地内で掘るに当たって、下水や排水などの配管もチェックしておきました。図面があれば理想的ですが、無い場合は雨水升などの位置から推測できます。
道具を揃えよう
揃える道具は以下の4つです。
- 手押しポンプ
- 打ち込みハンマー
- パイプレンチ × 2
- ポストレベル
ポンプは東邦工業のTB式共柄ポンプT32PUで、33,212円で購入しました。『となりのトトロ』でしか見たことがない人も多いかもしれません。非常に単純な作りで、組み立ても簡単です。
打ち込みハンマーはAmazonで4,400円で購入可能な、6.8kgのものです。筆者はヤフオクで送料込み3,100円で入手しました。
供回りを防ぐため、長さ520mm・3,958円のパイプレンチ2本をモノタロウで購入しました。
ポストレベルはパイプの鉛直を出すのに使います。Amazonで1,336円。
ポストホールディガー、いわゆる穴掘り器があると便利です。ホームセンターで5,588円でした。スコップでも代用できます。
“矢太郎Pro”(6.5mセット 47,600円)を含め、合計で100,052円かかりました。
掘ってみよう
準備が整ったので、掘削を始めます。
ポストホールディガーを投げ込むようにして数分掘ったところ、水が染み出てきました。
深さ1メートルですぐに泥水になり、ポストホールディガーは使えなくなりました。
ここからは”矢太郎Pro”の出番です。
シーリングテープを時計回りに5,6周巻いてから、パイプレンチで回らなくなるまで締めます。
ネジソケットもシーリングテープを巻いてから継ぎ、さらに打ち込み用の叩き管を付けます。以降、ひたすらハンマーで叩き込みます。
50センチ叩き込むごとに、パイプの底までホースを入れ泥水を排出します。水がスーッと下がるようになるまで、パイプを継ぐ、叩き込む、洗うを繰り返します。大きな岩に当たることも無く、深さ5メートルまでパイプが到達しました。
自宅の井戸の場合、深さ5.0メートルでは水が下がらず、5.5メートルで水が下がりました。
娘氏と息子氏も手伝ってくれて、作業は約4時間でした。掘る際は1人ではなく、数日かけて複数人で進めることをおすすめします。
砂、砂、砂
水が下がったので帯水層まで達しているはずです。ネジソケットと叩き管を外しポンプを装着します。ポンプの各ネジを締め、呼び水をポンプ内に入れて、ポンピングをしてみます。
出ました、砂混じりの水が!
ホウワさんに伺ったところ、「水が出てから7,000回漕げば良い」とのことでした。
実際、パイプを叩き込むより、砂との格闘の方が長期間に渡りました。汲み上げた水と砂を土嚢袋に入れ、運搬に困らない程度の重さになったら入れ替えます。初日は、12回も漕ぐと重くなってしまいましたが、15、20、30と回数が増えていき、2週間後には200回に達しました。つまりそれだけ砂の量が減ったということです。
そして、これは後から分かることですが、実はこんなに砂を掘り出す必要は無かった可能性が高いです。その理由は後述します。
庭が水浸しに
当初、水は庭に流れるまま放置していました。しかし、細かい砂を含むため土中に染み込みにくく、庭が徐々に水浸しになってしまいました。
そこで、立水栓のシンクが接続している雨水枡に、新たに井戸用の排水パイプを接続することにしました。次に、雨水枡の側面に穴を開けて、呼び径50ミリの塩ビ管を庭に埋めました。
シンクとの接続は、塩ビ管にエルボを接着して90度曲げたのみです。ですが、排水のことを気にせずに作業が進められるようになり、効率が良くなりました。
また、手押しポンプの吐出口に土嚢袋を引っ掛けて水を汲み、砂を捨てるようにしていたのですが、これもあまり効率がよくありません。排水パイプの余りを使って吐出口を延長しました。
さらにパイプを6メートルまで打ち込み、バルブを追加しました。これで、手押しと動力ポンプを切り替えられるようになります。この分岐に必要な物は以下のリストで、11,500円ほどでした。
- 継ぎ手(チーズ、上下32A、横25A)
- 呼び径1(25A)のバルブ
- 丸ニップル(25A)
- 丸ニップル(32A)
- 呼び径1-1/4(32A)のバルブ
- 長ニップル(32A)
井戸パイプに1を繋ぎ、1の横への分岐に2と3を繋いで、その先に動力ポンプを接続します。また、1の上への分岐に4、5、6を繋いで、その上に手押しポンプを接続しました。
エンジンポンプを投入
予想はしていたことですが、パイプを50センチ深くしたため、また砂が大量に出てくるようになりました。12回ほど漕ぐと土嚢袋がいっぱいになる状態に逆戻りです。ただし、回数が増えるペースが速く、途中で1週間の出張を挟んで2週間ほどで、落ち着きました。
ですが、井戸掘りにあまりにも時間がとられることもあり、全て手作業で水を得られるようにする当初の目標はここで断念しました。文明の利器、エンジンポンプを投入です。
Amazonで探し、交換部品がきちんと提供されている工進の約1.8万円のSEV-25Lを選びました。25Aのホースニップルと排水用ホースもモノタロウで追加購入し、2ストロークエンジン用の燃料も調達して水を汲み上げ始めました。
エンジンポンプと手押しポンプの両方を使ってみて分かったことに、負圧のかかり方の違いがあります。エンジンポンプは同じ負圧をかけ続けるのに対し、手押しポンプは脈動するように負圧が変化します。どうやら、手押しポンプでは落ち着きかかったパイプ先端の濾過層をかき混ぜてしまうようで、いつまで経っても砂が出ます。一方、エンジンポンプは5分ほど運転すると、澄んだ水が出てきます。つまり、最初から手押しポンプに拘らずにエンジンポンプを導入すれば、これほどの砂を汲み上げる必要が無かった可能性が高い、ということです。
砂取器を導入
砂が大量に出てくることが無くなったので、砂取器を導入しました。標準メッシュは#60なので粒径がより小さい砂は通過してしまいますが、目立つ砂は除去できるようになりました。
最終的に汲み上げた砂は約1.5立方メートルにもなったため、残土処理業者に依頼して処理してもらいました。
飲めるのかな?
最終的に、井戸水がこれ以上は綺麗にならなそうなレベルに達したため、水道水と比較してみたのが上の写真です。水道水と比較すると、若干濁りがあるのが分かります。水道水のありがたみが骨身に沁みます。深さ6メートルの浅井戸なので、こんなものだろうということで井戸掘りプロジェクトを完了とします。
とはいえ、この水が果たして飲用に適したものなのかが気になるため、千葉県薬剤師検査センターに「飲用井戸限定21項目」の水質検査を依頼しました。検査用の容器を着払いで送ってもらい、説明書に従って採水します。これらの容器をクーラーボックスに入れて、検査センターに持ち込み待つこと10日。結果が送られてきました。
判定は一般細菌が水質基準を上回ってしまいました。原因として、エンジンポンプから長いホースを繋いでいる、直接検査容器に注ぐのではなく一度ペットボトルで採水した、といったことが考えられます。煮沸消毒をすれば特に問題はないと思われるので、飲料水として利用可能な井戸となったと言えそうです。
まとめ
こうして2ヶ月にわたる「井戸掘りプロジェクト」は、ようやく完結しました。
最初は「もしもの備えに水を確保したい」という思いつきから始まりましたが、実際にやってみると想像以上に学びの多い体験でした。
掘り進めるうちに感じたのは、知識よりも現場感覚が大事だということです。
理論上は10メートル吸い上げられるはずのポンプでも、実際は8メートルが限界。
砂が出続けていたのも、負圧のかかり方ひとつで結果がまるで違う――そんな「やってみないと分からないこと」が次々に出てきました。
また、専門家の助言のありがたさも痛感しました。
自分の勘だけで掘り進めていたら、帯水層の位置も深さも見誤っていたはずです。
“矢太郎Pro”とホウワさんのサポートがなければ、途中で心が折れていたかもしれません。
そして、排水の大切さ。
井戸そのものより、砂との戦いと庭の水処理のほうがはるかに手強かったです。
最初から雨水枡に繋げておけば、あんなに水浸しにならずに済んだかもしれません。
最終的に、井戸の水は少し濁りはあるものの、検査結果はほぼ合格。
煮沸すれば飲用にも使えるレベルでした。
何より、自分の手で水を汲み上げられたときの達成感は格別です。
それまで「蛇口をひねれば出るのが当たり前」だった水のありがたみを、あらためて実感しました。
もしこの記事を読んで「自分も掘ってみようかな」と思った方がいたら、
焦らず、専門家に相談しながら、安全第一で進めてみてください。
少し大変ですが、あの一杯の水が出た瞬間――きっと笑顔になります。